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最終ファイル更新:2026/07/01 09:58
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表現の揺れ、誤字等を修整しています。
日本語版オリジナルカバーアート
総ページ数450/本文436ページ
原書表紙のPDF同梱
君はヴァンパイアだ。
夜を闊歩し、超常のつからを振るう、食物連鎖の頂点に君臨する怪物だ。
君はヴァンパイアだ。
ビクビクと正体を隠し、己の獣性に翻弄される、人類に寄生する歩く死体だ。
君にも社会がある。
恐ろしく年経たものたちに従事られた、どうしようもなく時代おくれの封建社会が。
君にも愛するものがいる。
可憐で、ひ弱で、いずれ年老いて死ぬただの人間が。
ようこそ、闇淵の世界(ワールドオブダークネス)へ。
ワールドオブダークネス
/A World of Darkness
テクノのビートが天井の低い空間を満たしている。
むっとする室温の中、君は汗ばんだ身体とぶつかりながら踊り続ける。安っぽい小ビルの最上階は、壁は落書きだらけ、床は何で濡れているのかも分からない。
君は酔っ払って、蠢く群集との一体感でハイになっている。
その女が君の横を通り過ぎる。肩に触れた手はひやりと冷たかった。
君がその背中を見送ると、彼女は人々を掻き分け、DJブースの後ろに入った。
かなり若い。
服装は周りのジャンキーたちと何も変わらない。
そこで彼女が君の視線に気付き、そっと笑いかけた。
その瞬間すべてが変わった。
彼女はこんなダンスフロアにはまるで似つかわしくない、深遠な秘密の担い手に見えた。
そんな経験をしたことが、一度か二度はあるだろう。
見知らぬ他人に強い興味を引かれたことが。
君はことによると彼らといい雰囲気になったり、険悪になったりしたかもしれない。
そして二度とその人物には会わなかった。
彼らと君の人生は一瞬交差しただけで、しかし何年経ってもその印象は薄れない。
現実の世界においては、それはただの偶然の出来事だ。
自分の横を通っていったあの女性は誰だったのだろう。
彼女は次の出番のDJで、セットの準備にかかったのだろうか。
彼女の手が冷たかったのは外で煙草を吸っていたからかもしれない。
現実の世界においては、物事には合理的な説明がある。
そこは、我々の世界と何も変わらないように見える。
君が働いているのと変わらないオフィスがあり、君が通ったのと変わらない学校があり、君のお婆さんが隠居暮らしを送っているのと変わらない老人ホームがある。
ただ、そこはワールドオブダークネスだ。
君が寂れた路地をしばらく辿り、目につかない角を曲がったとき、ワールドオブダークネスの本質がその鎌首を擡げる。
そこには数々の秘密と、井戸の底のような暗闇が広がり、何かのきっかけでそこに辿り着く者を待ち構えている。
ことによるとあれがきっかけだったのかもしれない。
もぐりのテクノパーティーで肩に触れた冷たい手が。
温かで居心地のいい暮らしに背を向け、君はその後を追ってしまった。
恐怖に満ちた闇の世界が待ち受けているとも知らずに。